仙台短編文学賞のなかの東北学院大学賞

年が明けてから、1か月が過ぎようとしている。この間、COVID-19は猛威を振るい、本学においても対応に追われたが、後期の授業を無事終了し、早いもので、来週からは入学試験を実施する。

そのような時間の流れの中で、どうしても忘れることが出来ない、また忘れてはならない出来事に東日本大震災がある。今年の3月11日で10年の節目を迎え、記憶の風化も懸念されてきた。そのような懸念を払しょくするためにも、2017年から被災地仙台の名前を冠した短編文学賞が創設され、毎年「仙台・宮城・東北に何らかのかかわりのある未発表作品」の応募を促してきた。大賞は『小説すばる』(集英社)に掲載されるので、地方文学賞とはいえ、評価の高い文学賞となっている。

(東北学院大学発行の総合雑誌『震災学』第14号2020年。この雑誌は荒蝦夷より書店でも市販され、東北学院大学賞の受賞作品が全文掲載される)

その文学賞のなかに、学生、生徒の作品を対象とした東北学院大学賞が設けられている。昨年の第3回仙台短編文学賞は、福島県南相馬市在住の芥川賞作家柳美里さんが審査委員長となり、水津藤乃さんの「冷たい朝が来るまえに」という作品が東北学院大学賞を受賞した。内容は、東京の大学院生である主人公が祖父の危篤の知らせを受け、故郷岩手に帰省した際に、周辺の変化を目の当たりにして、自身も変容していく姿を描いた作品である。東北学院大学賞は、これまで震災体験を昇華させた作品や故郷への想いを寄せた作品が受賞しており、若い世代が、文学を通じて、心の奥底から記憶の風化に抗う作品を競い合わせる場にもなっている。

第4回目の今年は、作家・クリエーターのいとうせいこうさんが審査委員長であり、3月の発表が楽しみである。