The Winter’s Tale―みちのおくの国の冬物語
仙台は日没が早く、寒さも到来し、次第に冬の様相を呈してきた。昨夜は多賀城市民会館小ホールで演じられたシェイクスピアの戯曲The Winter’s Taleを観劇した。本場ロンドンのサザークでも、ストラットフォード・アポン・エイボンでもなく、なぜ多賀城でそのような贅沢がと思われるであろう。実は、仙台は、東北学院大学下館和巳名誉教授が主宰するシェイクスピア・カンパニーという東北弁でシェイクスピア劇を演じる劇団の本拠地であり、それが、なかなかの実力の持ち主で、本場グローブ座でも公演を打ってきた実績を持つ。下館名誉教授との間には、早逝したが、17世紀イギリス文学批評の分野で嘱望された福島市出身の故小野功生フェリス女学院大学教授という共通の友人がおり、一度は下館シェイクスピアを観てみたいと念じてきた。
(パンフレット。3日間4回の公演のために、48人のスタッフと35人のキャストが一致団結して取り組んだ)
みちのおくの冬物語は、多賀城総建1300年記念事業実行委員会(会長:深谷晃祐多賀城市長)による市民劇である。出演者を多賀城市やその周辺地域から募って1年半前から稽古に励んできたという。磨き上げられ、本番の出来栄えは観客を引きこむような迫力があった。シェイクスピアの戯曲「冬物語」は、ボヘミア国とシチリア国の物語であり、ボヘミア国王が友人シチリア国王と自分の王妃の仲を疑い、嫉妬により、王妃を投獄し、娘を遺棄したことを後悔するが、大団円において、シチリア国において成長した娘と死んだはずの王妃と再会するという「再生」をテーマとした物語である。それを多賀城創建1300年記念事業としてどのように「再生」するかが鍵であったが、脚本・演出・芸術監督を担当した下館名誉教授は原典の魅力に忠実に、ボヘミアは陸奥の国、シチリアは出羽の国に置き換え、奈良時代の東北を舞台にシェイクスピアを見事に「土着化」させたのである。
(多賀城南門は、創建1300年を記念して復元された。高さ約14.5mの格式高い二重門。東北学院大学工学部は移転したが、東北学院幼稚園はこの由緒ある歴史都市多賀城市に所在する)
私は北海道出身であるが、子どもの頃によく耳にした東北・北海道弁がテンポよく脳裏で甦り、豊かな人間空間に酔いしれた初冬の一夜となった。