改題『被災学』の発行、そして仙台短編文学賞授賞式

改題『被災学』の発行、そして仙台短編文学賞授賞式

能登半島地震が起こった年頭の学長ブログに「『震災学』刊行し続けることの意味」という文章を掲載した。その後、本学発行の『震災学』は、第17号を最後に『被災学』と改題し、その創刊号を刊行した。改題の目的は、市民が突然の不幸に見舞われるのは、地震や津波、原子力発電所の事故のみならず、近年の新型コロナウイルスのような疫病の蔓延、地球温暖化による山火事、洪水・土砂崩れ、戦禍という愚かな人災である戦争までが含まれ、そのような出来事による「被災」をテーマとする視野の広い学問構築を目指したいからである。改題によって、本誌の守備範囲が広がり、また今日の時代が抱えている危機の構造が見えてくることを期待している。

(『被災学』創刊号の表紙。被災学という言葉を提唱したいとうせいこうさんのインタビュー記事が巻頭を飾る。発行東北学院大学、発売荒蝦夷、税込2200)

 

さて、本日はその『被災学』創刊号にも一部掲載されている第7回仙台短編文学賞の授賞式が仙台文学館で開催され、私も東北学院大学賞のプレゼンターとして参加した。昨年は、本学卒業生の佐藤厚志さんの芥川賞受賞を記念して、本学押川記念ホールにおいて開催されたが、今年の授賞式には、東北学院大学賞の受賞者である工学部卒業生浅井楓さんのみならず、河北新報社賞の受賞者である国際学部郭基煥教授も出席した。浅井さんの作品「擬態」であるが、性自認の問題をテーマとしている。多賀城キャンパスを舞台として男子学生と女子学生が、対面授業が始まった教室で出会い、男は男性らしく、女は女性らしくという教えに苦しみ、ハロウィンによる仮装、ミスコンへの参加を通じて、自分らしさを互いに認め合いながら、生きづらさの中で「擬態」として生きていくことを、素直に綴った物語である。また郭教授の作品「声の場所」は、関東大震災の折に、朝鮮半島出身の本学留学生が東京や千葉において外国人迫害事件の犠牲者となる物語であり、当時の新聞社の流言飛語に依拠した報道姿勢にも言及している。この小説を通じて、実際に息子を探しにある母親が朝鮮半島から来仙したことを史実として確認することができ、地元新聞社の報道姿勢がそれによって変化したということも判明した。

(前列右から東北学院大学賞、河北新報社賞、仙台短編文学大賞、仙台市長賞、プレスアート賞の受賞者。後列はそれぞれの賞のプレゼンター)

 

第7回仙台短編文学賞には、382編の応募があった。これは、7回のうち3番目に多い応募作品数である。また学生の応募者も増えた。佐藤厚志さんの芥川賞受賞や今回選考委員長を務めた人気作家伊坂幸太郎さんの効果かもしれない。いずれにせよ、歓迎すべきことである。第8回仙台短編文学賞は映画監督としても活躍している岩井俊二さんが選考委員長を務め、7月から応募を開始する。